借金を長期間返済していない場合、消滅時効が完成していることがあります。
では、消滅時効が完成した後に、債権者から「支払督促」が申し立てられ、そのまま確定してしまった場合はどうでしょうか。
この点について、確定した仮執行宣言付支払督促があっても、その確定前にすでに消滅時効が完成していた場合には、その時効を援用できると判断した裁判例があります。
宮崎地方裁判所令和2年10月21日判決(令和2年(レ)第10号・請求異議控訴事件)です。
どのような事件だったのか
この事件では、貸金業者が、借主に対する貸金債権について支払督促を申し立て、仮執行宣言付支払督促が確定していました。
しかし、その貸金債権については、支払督促が確定するよりも前に、すでに消滅時効の期間が経過していました。
そこで借主は、消滅時効を援用したうえで、仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行を認めないよう求める請求異議訴訟を提起しました。
一審では借主の主張が認められませんでした
一審は、仮執行宣言付支払督促が確定する前に貸金債権が時効によって確定的に消滅したとは認められないとして、支払督促の確定によって新たに10年間の時効期間が進行すると判断しました。
これに対し、借主が控訴しました。
宮崎地方裁判所の判断
控訴審である宮崎地方裁判所は、一審とは異なる判断をしました。
裁判所は、問題となった貸金債権について、仮執行宣言付支払督促が確定する前にすでに消滅時効が完成していたと判断しました。
そのうえで、時効が完成した後に仮執行宣言付支払督促が確定しても、すでに完成している消滅時効が中断することにはならないとしています。
さらに重要なのは、仮執行宣言付支払督促は、確定しても既判力がないとした点です。
そのため、支払督促の確定前にすでに完成していた消滅時効を後から援用することができ、それによって貸金債権は消滅すると判断しました。
その結果、一審判決を取り消し、仮執行宣言付支払督促に基づく強制執行を許さないとの判決を言い渡しました。
支払の督促を無視していたことは問題にならないのか
この事件では、借主が貸主から何度も支払いを求められ、支払督促の送達まで受けていたにもかかわらず、請求異議訴訟を提起するまで消滅時効を援用していませんでした。
債権者側からすれば、「支払督促を受け取ったときには何も言わなかったのに、後になって消滅時効を主張するのはおかしい」という問題が生じます。
しかし、裁判所は、そのような借主の消極的な対応だけでは、時効による債務消滅の主張と相容れないとまではいえないとして、本件における消滅時効の援用は信義則に反しないと判断しました。
「支払督促が確定しているから」と諦める必要はありません
この裁判例から重要なのは、支払督促が確定しているからといって、必ずしも消滅時効を主張できなくなるわけではないという点です。
もっとも、実際に消滅時効を主張できるかどうかは、
- 最後に返済したのはいつか
- その後、債務を認めるような行為をしていないか
- 支払督促が申し立てられた時期
- どのような裁判手続が行われているか
- 過去に判決などが出ていないか
などによって異なります。
古い借金について裁判所から書類が届いたらご相談ください
「何年も前の借金について突然請求された」「裁判所から支払督促が届いた」「以前届いた支払督促をそのままにしてしまった」という場合でも、事情によっては消滅時効を主張できる可能性があります。
一方で、裁判所から届いた書類を放置すると、差押えなどの手続に進むおそれがあります。
古い借金だから大丈夫だろう、支払督促が確定しているからもう仕方がないだろう、と自己判断せず、届いた書類を持って早めに弁護士へご相談ください。
